あらゆる建造物、あらゆる技術、あらゆる美術を道連れに、今や完全に砂の下へ沈もうとしている、過去の栄華。砂に埋もれていく奇々怪々な遺跡群。 世界の果ての如き赤い流砂。そこに呑み込まれていく無数の瓦礫。

 その、誰にも止めようのない崩壊のどこかに、ミトがいる。ムジカがいる。二人とも、イオキが見たこともない気迫で、互いに牙を剥き合って。

 二人を追い、「逃げなさい」と言うミトの言いつけを破って、イオキは跳んだ。

 汚れた白いドレスを包む、上等な青い上着が翻ると、ミトの匂いが皮膚に擦れる。 このまま、彼の匂いに包まって眠りたい誘惑に駆られる。 けれど今は、しっかり眼を開いていなければならない。生身の彼を、追いかけねばならない。

 あんな待ち焦がれた再会が、こんな物になるなんて。 ミトが笑顔一つ見せないなんて。抱きしめてもくれないなんて。そして、ムジカにあんなことをするなんて。

 思いもよらぬムジカの登場や、彼から受けた仕打ちなど、ミトが己を置いていったことに比べれば、些末なことだった。 二人の争いを止めたい、と思うのも、ムジカを助けたいと言う気持ちからではなく、何故ミトがそんなことをするのか、理解出来ないからだった。 とにかくもう一度、優しい父親に、世界で最も愛してくれる人に、会いたかった。

 多少の石の破片は払いのける気力も余裕もなく、皮膚が裂けてもすぐ塞がるのに任せながら、イオキは一直線に崩壊の中心へ向かった。

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