鋼の拳が、桃色の髪溢れる床に叩きつけられた。見る間に広がる亀裂は、 ロミが逃走を図ると察するや否やこちらへ飛びかかろうとしていた、ニィナの足元にまで及んだ。

「ちょっと、危ないじゃないの!」

 亀裂に足を取られ、ニィナが叫ぶ。遠目に見ていたオズマも、顔を引き攣らせた。

「おいてめえ! この空間が壊れたら、俺たち全員お陀仏だぞ!」

 ロミもぞっとした。
 深海の中に不思議な部屋を作り出す、謎の物質。それ自体が光を内包していて、外の景色を青く透き通らせる、水晶のような分厚い壁。 それが一部でも壊れたら、この部屋にいる全員、一たまりもない。流れ込む海水で溺死するか、深海の水圧で圧死してしまうだろう。
 そうか、それもタキオが全力を出せない一因か、とも思った。

 しかしタキオだけは平然としたもので、「そうら」と、再び床を殴った。

「ロミやオズマを追いかける場合じゃないぜ。俺を止めるのが先だ、先」

 この狂人が! とニィナは悪態を吐き、タキオへ標的を変更する。終始落ち着いた表情だったナギも、僅かに態度を硬化させる。 女王だけが、石のように身動きしない。

 完全にニィナの標的から外れたロミは、襲ってくる糸をかいくぐり、オズマたちの元へ走った。

「カメラを持って行けよ。撮影は、可能な限り粘ってくれ」

 ダイはもう一刻も早くこの場を離れたいと言う表情で、おとなしくタキオの指示に従った。
 オズマとダイの腕を取り、ロミは、唯一の出入口である階段の方を見たが、そこまでの距離は分厚い糸の帳に塞がれている。

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