そう言うとタキオは、砕けた床から拳大の破片を取り上げ、ニィナへ投げた。 ニィナは剛速球を辛うじて避けたが、こめかみをかすり、白目をむいて倒れる。 姉さん! と叫び、ナギが周囲の糸を彼女に向ける。 その隙に、タキオはさらに大きな欠片を掴み、天井へ投げた。天井はひび割れ、落下し始めた。

「馬鹿、馬鹿、馬鹿。早まるな」

 オズマが呟く。ロミも戦きの表情で、亀裂の広がっていく空間を見つめる。

 破片の降り注ぐ中、タキオはカメラに向け、声を張り上げた。


「なあ、見てくれたか。俺一人じゃ、こんなものだ」


 落下の衝撃が、部屋全体を揺らす。
 ロミは声も出せず、タキオを見つめた。


「この世からグールを殲滅するなんて言って、この世界にはまだグールが七人も残っている。これでも、精一杯やったつもりなんだがな。 どれだけ力を得たところで、何もかもを犠牲にしたところで、所詮俺独りの力じゃ、これが限界ってことだ」


 遠くから、少女の悲鳴が上がった。そこでようやくロミは、この空間には、一つ頭の双子と銀髪のメイドもいることを、思い出した。 彼女たちを助けなければ、と思うが、体が動かない。


「勿論、俺の思想に同意出来ない者もいるだろう。やり方に感心しない者もいるだろう。 俺のことを馬鹿だと蔑む者も、迷惑だと非難する者も大勢いるだろう。けどな」


「私はいいから、あいつを殺すのよ!」

 体をふらつかせながら、ニィナが叫ぶ。

「無理だ、姉さん」

 意識の朦朧とする姉を支え、ナギが言う。口から吐く糸で、落下する破片から、彼女を守りながら。 姉やノノたち、身を守る術を持たない女王を守ることに追われ、蜘蛛男は、タキオの口を塞げない。

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