その、化石のような瞳に、微かに涙が滲む。 彼女の、最初で最後の涙が。 どうしてあの時、あなたを喰いたくないと思ったのか、二度もあなたを生き延びさせたのか。 今なら分かる、と呟いた。 「新たな王たるイオキが生まれ、私の存在意義は潰えた。王としての役目から解き放たれた。最後の最後で、ようやく精神と肉体に自由が許された」 そして生まれて初めて、恋をしたのよ。 泣きながら、女王はゆっくりと鎌首をもたげた。 「馬鹿な人間ね。私など、放っておいても、幾ばくも無い命だったのに。新たなグールの王は、すでに誕生しているのだから」 タキオは聞こえているのかいないのか、振り向かない。 重たい腹と髪を引きずり、女王は這った。最後に残った命の一滴に、涙が引火したかのように。カメラに向かい、声を張り上げる。 「教えてやるわ。人間たちに。お前の見せた希望が、虚しく潰えていくこと。グールはこれからも生まれ続けるのよ。 その、新たな王の名は……」 -------------------------------------------------- |