突然、目の前で、巨大な鐘楼が爆発した。足の下で、家々の連なる橋が崩落した。 瓦礫に体を叩き潰されながら、イオキは死にもの狂いで跳び、崩落を免れた建物の窓から中へ、何とか飛び込んだ。 体を揺さぶる振動と音、体の再生が終わるまで、蹲ったまま待った。やがてそれらが止み、震えながら顔を上げると、そこはとても不思議な場所だった。

 まるで、巨大な縦穴の中にいるようだった。上を見上げると遠く円形の天井から光が注ぎ、下を見下ろすと底が見えない。 そして内側の壁には、まるで蜂の巣のように隙間なく整然と、黄金のタイルに縁取られた長方形の穴が開いている。 何の為の穴であるかは、一目瞭然だった。

 穴の中に寝かせられていたのは、人骨だった。彼らは皆死装束を纏っていたが、それらも含め、全ては土くれも同然となっていた。 しかし、頭や足の宝石には、輝きが残っていた。ミイラ化して、性別が判別出来る物さえあった。

 薄らと差し込む光の中の、塵埃越しに見るその光景は、物語の中でさえ見たことがなかったが、何より不思議なのは、それらを埋葬したり参拝する為の通路が、一切ないと言うことだった。

 イオキはしばし目の前の光景に圧倒されてから、向かいにもう一つ窓があるのに気づき、ゆっくりと歩き出した。

 長方形の棺は、少しだけ壁から出っ張っていたので、それらに取りついて、何とか進んでいく。 何体もの骸骨の顔が、匂いが、目の前を通り過ぎていくが、不思議と怖くはない。 もうずっと、同じ物を見続けてきたような気分だ。それらの腕に抱きしめられていたような気分だ。

 ようやく向かいの窓に辿り着いたイオキは、外を覗いた。
 とうとう、唇から息が漏れた。

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