久しぶりに会ったルツが、記憶より小さく見えたのは、体を丸めていたからだろうか。 記憶より老いて見えたのは、泣いていたからだろうか。

 見覚えのある人影を見かけた気がして、レインは、行く先を変えた。 右腕と左腕で、向かってくる人々をかき分けた。右足と左足で、人々の波に逆らった。 その先に、ルツがいた。物が散乱するスーパーの真ん中で、膝から血を流し、蹲っていた。

 その背に走って飛びつきたい衝動に、駆られた。が、腕の中に抱かれているマリサに気づくと、その気持ちは雲散霧消した。ゆっくりと近づき、出来る限りそっと、目前にしゃがんだ。

 こちらへ振り向いた、化粧も剥げた顔、頬を濡らした涙――  そしてその腕に抱かれた、真っ青な顔のマリサを見た瞬間、頭にかかる甘い靄も、正体不明の動悸も、何もかも消えた。
 代わりに背骨を貫いたのは、この二人を守らなければ、と言う冷静だった。

「レイン……」

 全く彼女らしくもない。もうどうしていいか分からない、と言った表情で泣くルツは。

 その姿は、無尽蔵の愛情に溺れさせてくれる海、或いは、無敵の強さで守ってくれる鋼、いずれでもない。 否、そもそも最初から、そんな物は存在しなかったのだ。一方がそれを無邪気に求め、一方がそれを努めて与えようとしていただけで。


 レインは、ルツの肩に、静かに右手を置いた。本当は、マリサともども抱きしめたいくらいだったが、恥ずかしくて出来なかった。 それでもルツは、驚いたように、菫色の瞳でこちらを見つめた。

 漆黒の瞳で見つめ返し、俺が助けるから、と、心の中で約束した。

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