レインはそのまま瓶を相手に渡し、行こうとした。が、男の手は瘧にかかったように震え、瓶を掴むことすら出来ない。

「駄目だ、かなり毒が回った。これ以上動けない」

 呟く声も、切れ切れだ。

『俺が取りに行く! 場所は?』

「銀杏通りと十四番通りの交差点近くだ」

『くそ、完全に逆方向か…… 全速力で向かうが、三十分はかかるな』

「むしろ、環境局からなら五分足らずだ。ヒヨ、噴出装置の安全を確保し、こちらへ来られるか?」

 しかし、無線機から応えたのは、激しい咳だ。 『ヒヨ、大丈夫か?』と、もう一人が声を大きくする。
 「ヒヨも吸い込んだか」と、男は凄い形相で奥歯を噛むと、レインから瓶をもぎ取り、その拳を地面につけた。

「グレオはそのままこちらへ向かってくれ。俺も何とか環境局へ向かってみる」

『ボス、無理は……!』

「このままでは死人が出る。一刻も早く瓶の中身を噴出装置に入れないと、クレーター・ルームは全滅だ」

 その一言を聞くなり、レインは男の手から、瓶を取り返した。幽霊のような男の手から、瓶は、いとも簡単に奪われた。 驚いた男が、引き留める暇もない。レインは瓶を握りしめ、環境局へ走り出した。

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