そこは、全てが死に絶えた都市の中で、唯一生きた緑の楽園だった。

 かつては墓に隣接する、巨大な鐘楼だったのだろう。しかし長年雨風に曝され続け、屋根の部分は跡形もなく消えてしまった。 残された土台に栄えたのは、鳥や風が運んだ種から芽吹いた、可憐な成りの花々だ。馨しい香りが、こちらにまで漂ってくる。

 中央の窪みには雨水が溜まり、大きな池が出来ていた。その池を挟んで、ミトとムジカが、相対していた。

 海の如く蒼い瞳と、太陽の如く琥珀色の瞳。
 双方とも、一刻の領主として贅を尽くした身なりは、見る影もない。死闘で引き裂かれた衣服は、ぼろきれ同然で体にぶら下がっている。 しかしその下の肉体は、傷一つなく、美しかった。人間と同じ造りをしていても、やはり人間とは全く異種の生物なのだと感じさせる決定的な美しさが、そこにあった。

 ほんの一瞬、イオキは二人に見惚れた。が、すぐに我に返った。二人は一見無傷に見えるが、人間ならば、もう何遍も死んでいるのだ。 その疲労は、隠しようがない。そしてその疲労は、圧倒的にムジカの方に濃く出ている。死相、と呼べるまでに。

「貴様は狂っている!」

 と、風に吹かれてよろめきながら、ムジカが叫んだ。

「俺たち全員を滅ぼす、狂気だ!」

 叫び終わらない内に、池が波立つ。

 瞬く間に池を越したミトが、ムジカの腹を、吹き飛ばした。

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