レインは溜め息をついた。

 そして深く吸うと、腹に力を入れ、一気に警官を引き上げた。


 そして彼の体が無事オーツに転がった、と見るや、手を離し、脱兎の如く逃げた。 相手が恐怖から覚めやらぬうちに、今度こそ六番の印を見つけ、示す枝を登り始めた。 大分登ってから後ろを見ると、どうやら相手が追ってくる気配はなかった。

 やれやれ、と額の汗を拭い、行く手を塞ぐ枝葉を除けると、人の姿が目に飛び込んできた。

 まず真っ先に飛び込んできたのは、一抱え程もあるドリンクサーバのような、しかしそれにしては機械的な印象の強い、タンク型の容器だった。 樹面に置かれたそれに、口をスカーフで覆った女がもたれかかっている。ひどく具合が悪そうで、拳銃を握った片手だけが、辛うじて力を残している。 銃口は、少し離れたところに転がっている男に向けられている。後ろ手に縛られた若い男は、どうやら意識を失っているようだ。

 葉擦れの音に気がついた女が、こちらを睨みつけた。彼女が口を開くより早く、レインはズボンのポケットから、水晶の瓶を取り出した。

「それは……」

 女は目を見開いたが、もはや驚く時間も惜しいようで

「そいつの中身を、この装置の中に……」

と、手招いた。
 レインは即座に彼女の元に近づき、協力して装置を開け、瓶の中身を注いだ。薬草のような香りがする液体を注ぎ終え、蓋を閉めると、女が震える手で装置のスイッチを入れた。

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