それからのことは、よく覚えていない。

 一時間ばかりも全力で走り続け、体力も気力も尽き果てた体は、目を開けたまま寝ているようだった。

 やがて髭もじゃの大男が、樹の上に現れた。装置に寄りかかっている女に駆け寄り、抱き起こそうとして、殴られた。 もうそれくらい、女は回復していた。そして、男の説明によれば、地上の人々も同じように回復し始めていた。

 説明がひと段落すると、女がこちらを指差した。レインに気がついた髭男は、こちらにやってきた。

「君のおかげだ」

 至極真面目な顔で使鎧の手を取り、そう言った。

 それから程なくして警官や軍人がやってきて、装置を回収し、縛られた若者を連行していった。 乱暴に連れていかれるその顔を見て、ようやくレインは、彼が『東方三賢人』のアジトにいた若者だと気がついた。
 不格好な鼻からは血が垂れ、醜い顔はさらに醜く歪んでいる。 若者の方は気づいたのか気づかなかったのか、とにかく目が合うと、にやりと笑い、呟いた。

「ああ、失敗しちゃった」

 罵声を浴びせられながら連行されていくのを、レインは黙って見送った。

 そして、倒れた。

 鬚男に支えられるのを感じながら意識を失い、次に目覚めた時には、病院にいた。

--------------------------------------------------
[1573]



/ / top
inserted by FC2 system