こうして、見知らぬ白い天井に目覚めるのは、何度目だろう――

 しかし今回は、懐かしい匂いがする。


「レイン」


 と、優しい菫色の瞳が、こちらを覗き込んだ。

 レインは漆黒の瞳を瞬き、起き上がろうとした。が、上手く力が入らなかった。その額を、ルツがそっと撫でた。

「良いのよ、無理しないで。あなた、ひどく疲れているんだもの。ゆっくり休まなきゃ」

 レインは枕の上から、ルツを見つめた。ルツは微笑み、少し体をどけた。 彼女の向こうにもう一つベッドがあり、マリサが安らかな寝息を立てながら、眠っているのが見えた。

「見ての通り、マリサは無事よ」

 固く強張った心臓が、ほぐれていく。腹の底からゆっくりと、泣きたいようなこそばゆさが、全身に広がっていく。

「軍の人から聞いたわ。あなたが街に解毒薬を撒いてくれたんですってね」

 散々泣き腫らした目を潤ませ、ルツは笑った。

「ありがとう、レイン」

 細い柔らかい腕が、骨ばった硬い体を抱きしめた。

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