「はい。じゃあ後で、切手を貼って出しておくわね」

 そう言って便箋を受け取ると、何を思い出したのか、ルツはクスリと笑った。

「そう言えばレイン、あなた、覚えてる? 去年、エッダの家から、私宛に手紙を出したでしょう」

 レインは瞬きした。そして、すぐに思い出した。 セムの父親が鹿を獲ってきた日、一人ぼっちの部屋で、手紙を書いたことを。

 するとルツは、ハンドバッグから一通の手紙を取り出した。

「ほら、これ。無事に届いたけど、その場で切手代を払わされたのよ」

 他でもない、例の手紙だ。切手の代わりに描かれた羊の絵を指差し、ルツは笑った。レインは赤面した。

 あの頃は、幼児同然だった。
 今は、多少は―― 否、ルツから見たら、まだ赤子のような物だろうか?

 気恥ずかしい気持ちで押し黙るレインの目の前で、ルツは長いこと、柔らかな笑みを浮かべたまま、手紙を見つめていた。

 やがて彼女は、言った。

「ねえレイン。私、この手紙、何度も読んだわ。何度も何度も。そして、何て返事を書こうか、ずっと考えていた」

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