上半身と下半身が分かたれたムジカは、最後の力を振り絞り、続く第二撃に応戦する。 しかし、応じきれない。目にも留まらぬ速さで繰り出されるミトの爪が、ムジカの上半身を更に細切れにしていく。 数秒後には、ムジカの上半身は、もう原型を留めていない。イオキが止めに入る暇もない。

 と、力を失って花畑へくずおれたはずの下半身が立ち上がり、ミトを蹴りつけた。両足を砕かれ、ミトは後方の池へ吹っ飛んだ。 池に落ちたミトを、下半身から全身を再生させたムジカが追う。頭が無い状態で、ミトの四肢を次々に引き千切る。 一瞬で真っ赤に染まった池に、ミトの体が沈む。

 水面に没する刹那、その体が捩れ、顔に苦悶の表情が浮かぶのを、イオキは見た。 同時に、自分がイジドールの沖でボートから突き落とされた時の苦しさが蘇り、体を刺した。
 イオキは悲鳴を上げ、飛び出した。花を蹴散らし、水に飛び込んだ。後先考えず、ミトを助けようと、手を伸ばした。

 しかし、水の中で指先がミトの体に触れた時にはもう、形勢が逆転していた。 イオキの目の前で、引き千切られたミトの四肢がそれぞれ独立した生き物のように、ムジカを襲っていた。 そして池の底から、大波が盛り上がった。池の水全て吹き飛ばす勢いで、大波は、池の中にいた者たちを吐き出した。

 苦悶の表情に見えたのは、大きく息を吸い込んだのだ。水中で吐き出した息で、大波を巻き起こしたのだ―― とイオキが気がついたのは、 花畑に転がってからだった。

 そんなことが出来るのか、とイオキは唖然とした。
 自分にはこんな芸当は不可能だろう。思いつきもしないだろう。イオキが助けるまでもないのだ。 恐らく地球上に、単独でミトに勝てる生物は存在しない。
 無論、ムジカも。

 イオキの足元で、鐘楼が砕けた。
 崩壊した花園と共に、グールたちは流砂へ落ちていった。

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