俺はその為に生まれてきたのだから。

 生きることは楽しいですが、これでいいのだろうか、という不安が、いつもつきまといます。 このまま生きていていいのだろうか、という不安が。

 俺は、本当はしゃべれるのに、しゃべりたくない。ルツやマリサは好きだけど、他の人間は好きじゃない。 人間が死ぬ、ということが、牛や羊や畑の野菜が死ぬ、ということより悲しいことだと思えない。

 こんな俺が、人間と同じように、生きていていいのだろうか。 おいしいごはんを食べたり、勉強したり、マリサと遊んだりしていて、いいのだろうか。

 俺の肉が喰えなくて苦しんでいる子が、今もどこかにいるのに。

 その子が「人間でない」という理由で苦しまねばならないなら、俺だって苦しむべきだ。

 それなのに、俺は苦しいのだろうか? よく分からない。もしかしたら俺の中には、本物の苦しみも悲しみも喜びも、ないのかもしれない。 ないくせに、知ったかぶりして、生きているのかもしれない。そういう不安だけはある。

 この不安だけは、確かに存在していて、たぶん、生きている限り続く、と思うのです。


 手紙をありがとう。

 おじいさん。風邪を早くなおしてください。
 マリサ。自由研究が完成してよかった。絵をかいてくれてありがとう。犬がかわいいと思う。
 ルツ。俺は元気です。毎日農場で働いています。ごはんはおいしいです。たくさん食べています。 夜は、きちんと毛布をかけて寝ています。膝のけがはかさぶたになりました。セムとはふつうです。

 早く家に帰りたいです。待っています。

 レイン』

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