「あなたと出会ってもう一年も経つんだわ。こんな背も大きくなって、あんな速く走れるようになって、顔もすっかり凛々しくなって……
 きっと、色々なことがあったのね。私がいない間にも、様々な人と出会い、色々な出来事を体験し、多くのことを考えたのね。

 そうして今もあなたが行き続けていると言うだけで、私は十分だわ」


 ルツの後ろで、病室は妙に明るく、白っぽく光り、全ての輪郭が失われていくようだ。


「だから、何を言っても構わないのよ」



 レインは思った。ユーラクの公園で泣いていたロミのことを。アンブルで助けに来てくれたタキオのことを。 凧、列車、動物園。自分と旅した人、自分を殺そうとした人、自分の目の前で死んでいった人。



 そして、緑の瞳が瞬いていた場面なら、何でも覚えている。 鉄条網の向こう側で白い牙を光らせたイオキ。雪の中で謝り続けていたイオキ。己の指を喰べていたイオキ。首から上だけになったイオキ。 どのイオキも本当に綺麗だ。そして苦しい。今も彼がどこかで泣いている、と考えるだけで、本当に本当に苦しい。





 あの子を森の奥に帰してあげたい。その為なら、俺は喰われたって構わない。
 思えば、ずっとそれだけを考えて、ここまで来た気がする。






「うん」

 と、レインは囁いた。低く、しゃがれた声だった。

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