永遠の砂地に、胸から下を呑み込まれる。 と同時に、誰かの手に、襟首を掴まれる。 力強く引っ張り上げられ、柔らかな収縮に、激しい抵抗が加わる。 砂の牢獄を抜け出し、宙を泳ぐ足裏に、固い地面が触れた。

 全て、ほんの一瞬のうちに起きたようだった。

 気づけば、流砂に落ちていたはずのイオキは、瓦礫を積み上げたような不安定な形の搭の上に、座っていた。 体にも頭の中にも赤い砂がいっぱい入ったようで、すぐに身動き出来ない。 茫然と前を見つめていると、遥か遠く、砂の中から、一際大きな飛沫が二つ上がるのが、見えた。

 ミトとムジカだった。

 二人の頭上で、巨大な都市が、ゆっくりと崩壊していた。都市はまるで積乱雲、降り注ぐ瓦礫は豪雨のようだった。 降ってくる瓦礫を足場に、二人は闘っていた。

 彼らまでの間に足がかりになるような物はなく、もはやはそこへ駆けつけることも出来ないイオキは、 緑の瞳をこれ以上開けないほど見開いて、二人の死闘を見つめた。
 急に、目からも耳からも砂が零れ落ちたようだった。世界はどこまでも透明で、距離も時間も砂も瓦礫も関係なく、遠くに在るはずの二人はまるで、己の掌の中で踊っているようだ。

 ムジカの首を正面から掴み、ミトが言った。

「グールの殺し方は、こうやるんだ」

 屠殺される鶏のように、ムジカは体を捻った。その琥珀色の瞳と、イオキの目が、合った。

 己で己の頭を引き千切り、ムジカは、ミトの手から消えた。
 そして数秒後、頭の再生したムジカが、イオキの目の前にいた。

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