墓場のような静寂は、やがて、本物の静寂と同化した。

 何時かは目を開けねばならぬ、と風が優しく諭した。


 そっと目を開けると、砂煙はすっかり収まり、波紋一つない空気だった。 周囲で続く崩壊すらも、美しく、静かだった。




 そしてその中心にいるのが、口から胸まで真っ赤に染めた、ミトだった。




 ムジカは何処にもいなかった。

 ほんの数分前まで足元に跪きこちらを見上げていた男は、もうこの世界の何処にもいなかった。




 敗者の跪いていた場所を踏みつけ、勝者は、静かに立ち尽くす。まっすぐ結んだ唇から裸の胸へ、鮮血を滴らせながら。闘いの余韻が、火傷しそうなほど熱く、皮膚に漂っている。 それを感ぜられるほど近くにいるのに、青い瞳は、こちらを見ていない。 大曲を終えた指揮者のように、彼は、ただそこにいる。


 イオキが腕を上げると、青い上着が滑り落ち、風に吹かれて飛んでいった。

「ミト」

 名を呼ぶと、涙がこみ上げてくる。


 絶望の涙ではない。
 喜びの、涙だ。



 終わったのだ。何もかも。



 ――相手が血に塗れているからと言って、何だろう? 野獣同然の恰好だからと言って、何だろう?

 同胞を喰らって殺したからと言って、何だろう?

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