それから、色々なことがあった。

 タキオと『エイト・フィールド』が共謀して見せた、人喰鬼の女王の最期は、人々に大きな衝撃を与えた。

 各国の主要テレビ局を占拠した『エイト・フィールド』のメンバーは、撤収する前に、録画テープを残していった。 その為、生中継を観ていなかった者たちの間にも、その映像は出回ることになった。
 無論、メンバーの一部はその国の軍や警察に逮捕されたし、録画テープは秘密警察に回収された。 しかし、秘密警察の手を逃れたテープも数多く存在したのだ。 報道意識に燃えるテレビ局関係者や、映像に心揺さぶられた軍関係者によって。 テープは密かにダビングされ、人から人の手へ渡っていった。 秘密警察は躍起になってテープの消滅を図ろうとしたが、もはやそれは不可能だった。

 タキオが遺した言葉は、世界中の決して少なくない人数の人々に、グールに対抗する意志を燃え立たせた。 そしてその意志は、秘密警察を恐れる気持ちを上回った。 それまで成りを潜めていた反グール主義組織の幾つかが、タキオの死に弔意を表すと共に闘争宣言を行い、 一般市民や識者の中にも、反グールを声高に叫ぶ者が続出した。

 秘密警察は彼らを粛清していったが、そんな行為に何の意味があっただろう?
 どれだけ秘密警察が市民を監視し、思想犯の名を着せ抹殺したところで、口を噤む人々の頭から記憶を消すことなど、出来やしない。

 かくして、世界は大きな変革の様相を見せ始めた。

 人間対人喰鬼の戦争の時代へと。

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