その波は無論、ワルハラをも襲った。同時刻に毒ガス騒ぎのあった第二都市では、生中継を観ていた人も少なかったが、 やがて騒ぎが収束し、テープが人々の間を渡り歩き始めると、反グール感情はむしろ他都市より強まった。 毒ガス騒ぎを起こした犯人が、己の犯行動機をマスコミに暴露したからだ。 逮捕後、軍に厳しく監視されていた犯人だったが、事前にとあるフリーライターに金を渡しており、その時限爆弾が作動してしまった形だった。

 稀代の名君と評判だったワルハラ領主の悪行が暴かれ、彼の権威は失墜した。 国民は説明と抗弁を望んだが、彼は何も語らなかった。否、その身すらすでにくらましていた。 混乱する国民を置いて逃げた領主に対し、彼らの怒りは爆発した。

 ワルハラ領主の屋敷がある森に、火が放たれた。止めようとする警察との間に衝突が起こり、警察側に何人か死者が出た。 その一人は、トマの父のガンだった。炎は深い森を焼き、美しい白い屋敷を呑み込み、そして『人間農場』も焼き尽くした。 檻の中にいた、何十人もの『家畜』も全て焼け死んだ。

 優秀な支配者を失ったワルハラは、あっという間に、その様相を変えていった。 かつてどこよりも平和で美しい国だっただけに、その変化は悲惨だった。


 しかし、この戦いを乗り越えた先に、グールに喰い殺される者の一人もいない、真に平和で美しい国が待っているのだ。



『その為に戦いたいと思っていて、でも勇気がなくて足を踏み出せない奴は、俺の後に続いてくれ』



 ――タキオの言葉は、グールのいない未来を願う者たちを、勇気づけた。

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