「そいつを殺さなきゃ、タキオが死んだ意味がないんだよ!」

 何かが折れるような、聞き覚えのある音が鳴り響いた。

 レインの背後からだ。
 わざわざ見なくとも、何が起こっているのか、レインは十分分かっていた。それでも、振り向かざるをえなかった。

 イオキが虚ろな目で、こちらを見ていた。もう舌を噛んで堪えるのが慢性化してしまったのだろう、爛れたような口元から、 血と涎が、腹を空かせた犬のように垂れている。全身がわなないている。目の前の獲物に喰らいつきたい欲求を、後一歩のところで堪えている。

 ぎくしゃくと、イオキの顎が開いた。同時に、ロミが飛びかかろうとした。素早く視線を走らせ、レインは彼女を止めた。

 今にもレインに喰らいつくかと全身を膨らませたイオキは、次の瞬間、己の腕に喰らいついた。

 肉が裂け、骨の砕ける音が、雨音に混じる。
 瞬く間に、両腕が肘まで消える。

 ようやく喰らうのを止め、顔を上げた時には、もう再生が始まっていた。

「ごめんなさい」

 口の周りを真っ赤にして、イオキが呟く。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 緑色の瞳からは、とめどなく涙が溢れている。

「生まれてきて、ごめんなさい」

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