やがて雨音の中に、ロミの声がはっきりと響いた。

「どいて、レイン」

 レインはロミを見た。
 ロミは静かに言った。

「どかないなら、あなたごとやる」

 その静けさに反応したように、イオキの嗚咽も止む。

 緑の瞳と黄金の瞳が、睨みあう。
 ゆっくりと、二人の呼吸が変わっていく。

 互いを殺す覚悟を決めた、表情だ。


 生きてきた時間に疑問しかないかも知れない。今ここで血も涙も枯れ果てるかも知れない。先の未来に絶望と後悔しかないかも知れない。

 それでも生き続けたいと願うなら、相手を殺すしかないのだ。  殺さなければ、殺されてしまう。他方が生きれば他方が生きられない。そういう関係に、世界に、生き物に生まれてしまったのだから。



 仕方ないことなのだ、と、己の命の途方もない重さを知る人々は、言う。


 けれど、本当にそうなのだろうか?



「嫌だ」

 と、レインは呟いた。



 本当に、越えられないのだろうか?
 自分たちの周りに張り巡らされた、見えない無数の鉄条網を。

 三人で凧を揚げたり、歌を歌ったこともあったのに。

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