見た目に似合わず、テクラは運転が上手かった。

 「シートベルト、してくださいねっ」

 そう言うなり急発進した軽自動車は、ものすごいスピードで駅の駐車場を出て、そのまま賑やかな大通りをすっ飛ばしたが、周囲からクラクションを鳴らされるようなことはなかった。

 裏道へ入ると、テクラはますますスピードを上げ、線路に沿うようにして車を走らせた。
 車窓から見える景色が、次第に変わっていく。人影がなくなり、建物の壁には乱雑な落書きが目立ち、電話ボックスは破壊されている。

 やがてテクラは、人の気配がまるでない通りで車を止めた。
 車を降りると、建物の向こうから列車の音が聞こえた。
 三人が建物の角を曲がると、すぐ目の前が線路で、列車の音はほとんど真上から降り注いできた。

 キリエは顔を上げたが、列車の姿が見えないほど、レールは高かった。
 そして、そのレールと地上の間、レールを支える骨組みの中に――

 ――アンダー・トレインと呼ばれる、巨大な建築群はあった。

 明らかに、公的な都市計画に則って造られたのではないと分かる。数戸のコンクリートビルを中心に、様々な材質、大きさの建物が、絡み合っている。どんどん増築を繰り返し、こんな異形の大樹を思わせる姿になったのだろう。

 その姿は、まさに魔天楼。

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