すると、ロミの声がした。

「……普通のでいいの?」

 大人たちは振り返った。

 いつの間にか作業台から降りたロミが、そこに立っていた。

 金色の細い足をジャンパースカートから覗かせ、ロミはつかつかとこちらにやってくると、レインの顔に手をかけ、振り向かせた。

 レインはロミを見上げた。

「レイン、それでいいの?」

 裸電球の下で、彼女の金色の瞳は、獣のように輝いていた。

「レインは、レインをこんな風にしたグールが、憎くないの?」

 あの時と同じだ。
 レインが診療所で目覚めた時と同じ。

 静かな表情の中で、瞳だけが、あの時と同じ、目を背けたくなるほど激しく歪んでいる。

 レインの頬に当てられた手に、ほんの僅か、力が入った。

「グールを殺したいって、思わないの?」

 タキオが静かに制した。

「やめろ」

 嫌な沈黙があった。

 タキオはため息をついた。

「もう何回も、何百回も言ってるけど、そいつ、言葉分かんねーから。言っても意味ねーから」

 ロミはうつむいた。

 その下唇がギリ、と噛まれるのを、レインは見た。

--------------------------------------------------
[142]



/ / top
inserted by FC2 system