「お姉ちゃん……」

 と、その時マリサが、か細い声を上げた。

 ロミは顔を上げると、マリサの元へ駆け寄り、不安げな表情で立っている彼女を抱きしめた。

「ごめんね! 何でもないよ!」

 向日葵のようににっこり笑って、ロミはマリサの顔を覗き込む。 マリサはたちまち、笑顔になった。

 レインはじっと、そんなロミを見つめた。

 ロミはいつも話しかけてくれる。不安な時に抱きしめ、大丈夫だよと笑ってくれる。
 華奢な腕が背中に回されるだけで、艶々した赤い髪から野草の香りを嗅ぐだけで、レインは心からの安堵に包まれる。

 彼女が与えてくれる温もりは、全て血液となって、彼の中で呼吸している。


 けれど、あの炎だけは、熱すぎる。

 レインが名前も知らない、あの激しく燃える感情だけは。


 その火の手が伸びてくることを、ほんの僅か――

 ――ほんの僅かに、レインは恐れている。


「レイン」

 レインは振り向いた。

 優しい瞳で、ルツがこちらを見つめていた。

 静かにルツは言った。

「いいのよ。あなたは、あなたの生きたい道を生けば」

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