「安心しなよ、メイドさん」

 ヒヨは煙草の吸殻を床に捨てて、言った。吸殻は、何に使われたのか知らないが、使用済みの注射器の側に落ちた。

「テクラはさ、確かに軍人としちゃペーペーだよ。あたしらレッドペッパーの中じゃ、一番の新米だし。けどあいつは、所謂、『期待の新人』ってやつだから」

 キリエの頭上で、切れかけの蛍光灯が明滅する。

「何せあいつは、アンダー・トレインの中で生まれて、十二歳まで育ったんだ。ここは、あいつの家みてーなもんさ」

 先頭を歩いていたテクラが、止まった。
 通路の突き当たりの扉を用心深く開けながら、呟く。

「でもあれから十年経ってますし、僕がいた頃と、随分変わってますよ。組織の縄張りの区分も、激変してるっぽいですし……
この先は非常階段になってて、ここからグレオさんのいる階まで、一気に上がれるはずなんですけど……」

 扉の向こうには、暗い通路が続いていた。
 テクラはため息をついた。

「ほらね。アンダー・トレインって、一ヶ月として、同じ形態を保てないんですよ」

 と、そこでキリエと目が合い、テクラはぎょっとする。

 キリエは別に、何を思って見たわけでもないのだが――

「だ、大丈夫です! ここは僕の家みたいなものですから! 任せてください!」

 テクラは急いで先へ進み出した。

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