複雑に交差し、絡み合う通路を、テクラは迷いなく進んでいく。

 アンダー・トレイン内部は、外見よりいっそう、複雑だった。
 曲がりなりにも一般的な建物としての様相を保っていたのは、精々一階まで。そこから先は――

 まさに悪夢のごとき、迷宮だった。

 瓦礫に塞がれた通路、どこにも続かない階段、開けた先が空中になっている扉。あちこちに、組織の縄張りを示すマーク。
 そして、忘れ去られた影のようにあちこちを徘徊する人々。すえた臭い。足元でパキッと音を立てる、白い欠片。

 そんな中をまっすぐ歩いていくテクラについていきながら、にしし、とヒヨは笑った。

「何だよ、あいつ。メイドさんに惚れちゃったのか〜? どーよ、メイドさん。可愛い系の年下は、趣味じゃない?」

 酔っ払いのような絡みを、スッパリとキリエは切り捨てる。

「趣味じゃありません」

「グレオさん、今どこですか?」

 集団の先頭を進みながら、テクラは無線機に向かって言った。

『分からん! 上に向かってることは確かだが…… 仙堂薬店から何階分上がったのかも、分からなくなってきた』

「ええ〜」

『ちゃんと見つけてくれるんだろうな? 俺、このままアンダー・トレインの住人になっちゃったりしないだろうな?』

「うるせーよ、グレゴリ男。くだらねー心配してないで、ちゃんとザネリとユーリを追いかけてろ」

ヒヨが無線機に向かって言い、テクラは苦笑する。

「大丈夫です。ザネリは『世界協定(エイト・フィールド)』の一員ですし、エイト・フィールドの縄張りだったら、大体分かってますから」

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