「何平然としてるんですか! あそこは人数も多いですし、万が一、三人兄弟の一人でもいたら……」 「あーあ、上手いこと嵌められたな。ま、今さら仕方ねーよ。もう着くし」 エレベーターの扉が開いた。 「すいませーん」 悠々と煙草の煙を吐き出しつつ、ヒヨは事務所内の様子を見渡した。 モノトーンで構成された、ホテルのスイートルームのような洒落た部屋で、ロフト風の、ガラス張りの二階がついている。 上階と、下階と。招かれざる客を迎える構成員たちの数は、ざっと三十と言うところだろうか。 「……誰だてめえ」 中央の、革張りのソファセットに腰かけた男が振り向いた。 「あれが三兄弟?」 こっそり尋ねてくるヒヨに、半泣きの表情でテクラは答える。 「いや、若頭だと思います」 「ふーん…… あ、いや、あたしら、うっかり迷い込んじゃった観光客なんだけど」 ヒヨは男に向かって言った。 「ここ通してもらって、いい?」 「駄目だ」 「ですよねー。じゃあ、大人しく下に戻るわ」 しかし、エレベーターのボタンを押しても、箱は動こうとしない。 見ると、巨漢の構成員が、エレベーター脇の壁にあるボタンを押していた。 ソファに腰かけたまま、男は言った。 「殺せ」 -------------------------------------------------- |