その喉元はぱっくりと切り裂かれ、男は自らの血の海に溺れ死んでいた。

「三頭会の…… ナツキですね」

 男の手の甲にある三頭犬の刺青を見て、テクラは呟く。

 まるで興味がないように、キリエは男の死体を跨いで、先へ進もうとした。

「待ってください」

 その腕を、テクラがつかむ。
 キリエは不愉快そうな表情で振り向き、つかまれた手首を見下ろした。

「ここで待っててもらえませんか」

 真剣な表情で、テクラは言った。

「必ずユーリは、僕が連れて帰りますから」

「嫌です」

 キリエはにべもない。

「僕が信用出来ませんか」

「ええ」

 彼女は静かに頷いた。

「私が信じるのは、私だけです」

 テクラは一瞬、寂しそうな顔をして目を伏せ、キリエの手首から手を離した。

「……分かりました。
 行きましょう」

 言うなりテクラは、男の死体を飛び越えて走り出す。

 二人は通路を走り、錆だらけの階段を駆け上がった。
 頭上で、再び轟音が鳴り響く。

 階段を上り詰め、テクラはそこにあった扉を開け放った。

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