途端に突風が吹き抜け、キリエのスカートは大きく翻った。

 顔の前を流れる銀髪を押さえながら、キリエは目の前の光景を見た。

 そこはまさに、アンダー・トレインの頂上だった。

 何もない、正方形の屋上。左右を、レールを支える巨大な鉄骨が挟む。前後は、アンダー・トレインを構築する別の建物で、両方とも高さはぐっと低い。

 眺めは絶景だ。鉄骨越しに見えるのは、果てしなく広がるクレーター・ルーム。街並みも木々も、何もかもが遥か眼下。人間など、塵にすら見えない。

 しかし、前後左右、どこから落ちても、絶命は確実。

 頭上のレールを、列車が通過していく。

 轟音が過ぎ去った途端、悲鳴が響き渡った。

「助けてくれ!」

 叫んだのは、キャップを目深にかぶった、高校生くらいの少年だった。

 少年の喉元には、ナックル付きのトレンチナイフが当てられている。後ろから羽交い締めにしてナイフを当てているのは、トレンチコートを着た、痩身の、狐目の男だ。

「ザネリ……」

 とテクラは呟いた。

 と、ザネリの手前で、堂々たる体躯の男が、腹から血を流しながら呻いた。その声は、無線機越しに聞き覚えがある。

--------------------------------------------------
[159]



/ / top
inserted by FC2 system