「腕を上げたな」

 ユーリの後ろで、ザネリは感心したように言った。

 二本目、三本目のナイフを手に、テクラはザネリの方に一歩、足を踏み出した。

「彼を離してください。もう盾はいらないでしょう」

「いや、盾としての役割は終わったから、ここからは本来の役割に戻ってもらう」

 ザネリは静かに言った。

「彼は大切な『商品』だ」

 ユーリの顔から、血の気が引いていく。

「なっ…… なんで俺が商品なんだよ! 俺が売ったのは、イオキだぞ!」

「分かっているとも。その子のところには、私の仲間が向かっているよ」

「?!」

「まだ分からないんですか」

 テクラは、ユーリに言った。

「人買いザネリは、一般市民と取引なんかしませんよ。彼にとって、他人は全て商品なんです。君は嵌められたんですよ」

 ユーリは呆然とした。

 すると、キリエが静かに口を開いた。

「イオキ様は、どこです」

 男たちが、一斉にキリエを見る。

「助かりたければ、言いなさい」

 赤い瞳に気圧されたように、ユーリは答えた。

「……『穴熊』って言うホテルの、二〇八号室……」

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