工房の反対側の壁には、人が出入り出来るサイズの大きな窓があり、カーテンがかかっていた。そこへ近づいていくと、確かに川の流れる音がした。

 タキオがカーテンを開けると、すぐ目の前に川があった。川面まで階段三段分といったところで、川を挟んで向こう側には、コンクリートの護岸壁の下部が見える。川面は随分深く、見上げても、ここからでは護岸壁のてっぺんが見えないくらいだ。

「昔はすぐに川の水位が上がったから」

 とタキオの後ろから、ルツが言った。

「ここら辺の家は、みんな川面よりずっと高い位置にあるの。
クレーターの上にドームが出来てそういう心配がなくなったから、こうして地下室を作ったのよ。
たまに雨が降って水位が上がるとシャッターを降ろすんだけど、そうすると潜水艦の中にいるみたいな気分になるわ」

「なるほど」

タキオは感心したように言った。

「秘密の地下室ってわけか。けど、ワルハラじゃ使骸造りは合法だろ? わざわざこんな場所作らなくても……」

「別に秘密ってわけじゃないわよ?」

と、あっさりとルツは言った。

「私、ベッドカバーとかキルトで作るのが趣味なの。それ用の部屋が欲しかったんだけど、上には増築出来なかったから、下に掘っただけよ」

「……じゃあ、ここで使骸を造ってるってわけじゃあ」

「全然。あ、でも道具は一通り揃ってるわよ。昔使ってたのを、ここにしまい込んだから」

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