『不安』の二文字が、タキオの顔に浮かぶ。
 それをよそに、ルツは腕まくりしながら、積み上げられたダンボール箱の山へ向かった。

「さあて、まずは道具を探し出さなきゃね。マリサ、窓開けてくれる? タキオは荷物降ろすの手伝ってちょうだいな」

 マリサが窓を開けると、外の空気と共に、土と水と緑の生き物が混ざったような、不思議な川の匂いが中へ入ってきた。

 レインとロミとマリサは、工房の隅に置かれた大きな作業台の上に座り、大人たちが働くのを眺めた。
 タキオは半ばやけくそのように、どんどん荷物を降ろしていき、それをルツが一つ一つ開けていく。

「すごい。やっぱり若い男の人って、力あるわね」

「そもそもこれを積み上げたのはあんたなんじゃあ…… なあ」

クリスマスツリーと書かれた箱を降ろしながら、タキオは言った。

「あんた、旦那は?」

「いないわよ」

箱の中身を検分しながら、ルツはさらりと答えた。

「マリサが生まれる前に、事故で死んだの」

「……」

ルツは明るい声を上げた。

「あったわ」

ダンボール箱から上げられた彼女の手には、鋭いメスが握られていた。

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