この風を辿り、深い深い森の奥へ帰れば、ミトはいる。
 そう望むなら、きっとミトはイオキを抱き上げ、そして二度と離さないでくれるに違いない。

 分かっているのに――


 体は動かない。手を伸ばすことを、止められない。



『どうして?』



 イオキは目を閉じて、ゾーイを思った。

 最後のフェンリル狼のように、仲間もなく、人にも慣れず、独りぼっちで生き、死んでいく者の、果てもない寂しさを思った。



 草が揺れた。
 人間の匂いがした。

 イオキは、ゆっくりと目を開けた。

 学校の制服を着た、無愛想な顔立ちの少年が、そこに立っていた。
 彼はどこか呆けたような表情で、じっとこちらを見下ろしていた。


 イオキの中の獣が、首をもたげる。
 緑色の瞳が、じっと少年を見つめる。



 それでもなお抗うのか、恭順するのか――



 選べる道は、一つしかない。

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