ニルノの顔が、真っ赤になった。

「……な、何だい。君、俺の書いた記事なんか、褒めたことないくせに」

「ああ。いつか直接会えたら、言おうと思ってたんだよ」

タキオは澄ました顔で、ナンを口に運ぶ。

「全世界の新聞記者がああいう記事が書けるよう、俺たちは戦ってんだな」

 ニルノは黙っていた。

 やがてカレーもなくなり、ニルノが勘定をして、二人は外に出た。
 雨は霧のようになり、空はすっかり夜になっていた。街灯の明かりに、雨に濡れた石畳や路面電車のレールが柔らかく光っている。人間を満杯に詰め込んだ『ドーナツ号』が、二人の前を通り過ぎていく。

「……五千万のことだけど」

 店の軒先で、不意にニルノは言った。

「工面する方法が、一つだけある」

 タキオは、ニルノを見下ろした。

「賞金稼ぎだ」

 ニルノは真剣な表情で、タキオを見上げた。

「ワルハラには賞金首の制度がないけど、他の国なら、大抵はある。国によっては、一千万の賞金がかかっている犯罪者も。そいつらの首を取れれば、五千万稼ぐのも不可能じゃない」

 タキオはぶは、と息を吐き出した。

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