「分かり易い方でしたから」

 淡々とした物言いの中で、コジマの目が、ふ、と柔らかくなる。

「表面上は常に余裕があるように振る舞っていらっしゃいましたが、実は気分の浮き沈みが激しくて…… そういう意味では、難しい方でしたね。秘書室の他の者が、よく泣かされました」

 その、控えめながらも芯の強い態度。きっとムジカは彼女が相当気に入っていたであろう。彼の側にそんな人間がいたことを、ミトは微笑ましく思う。

 そんなミトの胸の内には気づかず、コジマは口調を改め、手元のファイルに目を落とした。

「ムジカ様の領主辞任も、ミト様の領主代理就任も、まだ公にはしていません。表向きにはまだ、ムジカ様が政権を握っている状態です。公式発表はいつになさいますか?」

「なるべく早く。今回の視察は一週間の予定だったね?」

「はい。その一週間で、ユーラク国内の主要都市、機関の視察を行なって頂く予定です」

「それでは視察が終わったら、すぐに正式な発表を行おう」

 コジマは首を傾げた。

「……さしでがましいようですが、なるべく早くと言うのなら、今発表なさってもよろしいのでは?」

「政権移行を、なるべくスムーズに行いたいんだ」

ミトは言った。

「僕の政治は、恐らくムジカの物とは全く変わった物になる。移行に当たって、かなり情勢が不安定になるだろう。そこをテロリストにつけこまれたくない。視察の間に政策を固め、就任時までにある程度地盤を整えておきたいんだ」

 コジマは納得したように頷き、ファイルを閉じた。

「承知いたしました。それでは、一刻も早く視察を始めましょう」

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