「この辺りは砂嵐によって農作物が育つこともなく、地下資源にも乏しく、国内でもとりわけ貧しい地域でした。住人の大部分が出稼ぎで生計を立てていましたが、経済の悪化でそれもままならなくなり……」

コジマが説明する。

「エイゴンへの亡命者が増えたことを受け、ムジカ様は国境の警備を強化されました。そして、現状視察と称して、事前通告せず、この村を訪れたのです」

 黙って耳を傾けながら、ミトはその後の展開を、正確に予測する。コジマは溜まったものを一気に吐き出すように、淡々と続けた。

「ムジカ様がこのトンネルを発見された時、中では四人の男が作業中でした。ムジカ様は連れてきた軍隊に命じて、その四人を地上に引きずり出しました。彼らの中で一番若い者は、まだ十三歳くらいでした。彼らの命乞いも聞かず、ムジカ様はその場で彼らを殺しました。成り行きを見守っていた彼らの家族が悲鳴を上げました。ムジカ様は軍隊に、村人を皆殺しにするよう命じました。そして村人が虐殺されていくのを見ながら、まだ息がある少年を、笑いながら食べていました」

 そこで不意に、コジマは黙った。

 乾いた砂風が、二人の間を通り抜けた。

 コジマは頭のスカーフを押さえると、振り向いて「あそこに丘があるでしょう」と言った。

 ミトは振り向いて、彼女の指差す先を見た。丘と言うよりもただの砂山に、枯れた木が一本立っていた。

「ろくに植物も生えない村ですが、何故かあの丘だけは緑豊かで、村人たちの憩いの場所だったんです」

 枯れた木の向こうから差す夕日が、彼女の横顔を赤く染めあげる。

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