ロミの家には、電気が通っていなかった。

 粗末な漆喰の家の中には、大きなかまどがあり、そこにはいつも火が揺らめいていた。火は料理をする為にあり、野犬を追い払う為にあり、温もりを得る為にあり、夜の闇を照らす為にあった。

 黒いかまどの中の赤い火は、生活の中心だった。
 毎晩夕食の後、家族は焼け焦げだらけの敷物の上に座り、かまどの火を囲んだ。
 火のように赤いロミの髪を撫でながら、ロミの父は煙草を吸い、彼女の他愛もない話に笑い声を上げた。

「全く、ロミは我が家の炎だな」

と、大きな口髭の下から父が言うと、「違うよ」とすかさず隣で凧糸を巻いていた兄が声を上げた。

「本当の炎は、母さんだ。ロミなんか、すぐ泣くし、怒るし、五月蝿いばっかでかなわないや」

赤ん坊に乳をあげながら、ロミと同じ、真っ赤な長い髪をした母は微笑む。

「だってお兄ちゃんが、凧を全然貸してくれないんだもん!」

父の膝に寝転んだままロミが抗議の声を上げると、兄はフン、と鼻を鳴らした。

「当たり前だろ。来月は凧上げの大会があるんだから。優勝商品はマウンテンバイクなんだぞ」

「もらったって、乗れないくせに」

「すぐ乗れるようになるさ」

「トンネルが通ったら、マウンテンバイクも持ってくの? マウンテンバイク、トンネル通れるの?」

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