途端に、兄は顔色を変えた。

「馬鹿! トンネルのことは言うなって、いつも言ってるだろ!」

 兄の大声にロミは怯え、父の膝につかまって、泣きそうな声を上げた。

「お兄ちゃんだって、今言ったじゃん!」

「こら、二人とも」

母が、唇に指を当てる。二人は、はっと口をつぐんだ。ロミは急いで起き上がると、赤ん坊の方に顔を寄せた。

「ごめんね、怖がらせちゃったね」

「ロミ」

 厳しい表情で、父は煙草の煙を吐いた。この地方に自生する植物を巻いて作られたそれは、濃い煙と共に、微かに甘ったるい匂いがした。

「トンネルの話を、外でしてないだろうな」

「うん。誰にも言ってないよ」

「もしトンネルのことがバレたら、父さんたちは大変なことになる。一緒に掘っている叔父さんや、近所の人たちもだ。決して他の人には、言うんじゃないぞ」

 ロミは「絶対に言わない」と言った。

 そしてその言葉通り、彼女は決して、誰にも言わなかった。


 なのに、どうして――


 他の村人の口から、漏れたのかも知れない。もしかしたら、近隣の村の者が密告したのかも知れない。

 けれどロミは、今でも夢でうなされる。

 あの時、私がうっかりかまどの側で言った言葉が、砂だらけの風に混じり、遠くあの男の耳に入ったのでは? と。

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