街の中心に広がる、広大な森。 その真ん中にそびえ立つのが、かつて城下の民から『悪魔の城』と恐れられた古城だ。

 城を背景に写真を撮る観光客たちに混じり、タキオは城を見上げた。
 城から生えた何本もの尖塔が、真っ先に目に入る。曇天に向かって伸びたそれらは、落ちてくる天使を串刺しにしようと待ち構えているように見える。

 その最も高い尖塔の先に、青に白い馬を画いた旗が翻っている。現ワルハラ領主、ミトの紋様だ。
 そう、この城が悪魔の城と呼ばれていたのは、昔の話。今、この城は五百の城と呼ばれ、ミトが政治を行う場所となっている。

「タキオ?」

 名前を呼ばれ、タキオは振り向いた。

 路面電車のレールの向こうに、オレンジ色の傘を差し、ノーネクタイのジャケットに洒落た眼鏡をかけた男が、口をOの字にして立っていた。
 年は恐らく、タキオと同じ二十四、五と言ったところだが、血色の良い頬と言い、悩みのなさそうな明るい目と言い、タキオより五つは若く見える。

「児流野(ニルノ)」

 と男を認めたタキオは、怒りの声を上げた。

「てめえ…」

「わーっ、わーっ、ちょっと待てタキオ、早まるな!」

 レールの向こうで、ニルノはぶんぶん腕を振り回す。その慌てぶりに、タキオはやや拍子抜けして、「何だよ」と呟いた。

 路面電車に轢かれそうになるのも構わず、ニルノはレールを横切り、タキオの元に駆けつけた。

「待て! タキオ! 今ここに、領主はいない!」

「はあ? 何で」

「領主は、今ユーラクに行ってるんだ!」

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