ロミは夢を見る。

 村の外れに掘られた、深い深いトンネル。頭につけた懐中電灯一つとスコップ一本で、それをさらに掘り進める、父と兄と、近所の人たち。
 ロミが弁当を持っていくと、真っ黒の顔をした兄が、トンネルから頭を出す。

 「ありがとう」と白い歯を見せた次の瞬間、その表情が凍りつく。

 ロミは穴の縁にしゃがんだまま、振り返る。


 そこにいたのは、悪魔。
 褐色の体を細身のスーツで包み、美しい絹のスカーフの下から、琥珀色の瞳を光らせた、人喰鬼。


 その、地獄の業火のような瞳に見入られた、と思った瞬間、軍服を着た男に腹を蹴られ、ロミは地面に転がった。

 「ロミ!」と兄の叫ぶ声がした。吐き気に似た激痛で意識が朦朧とする中、彼女は見た。

 父や兄が、トンネルの中から引きずり出されるのを。赤ん坊を抱いた母が、叫びながら駆け寄ってくるのを。

「見せしめだ。村人は全員殺せ」

 ムジカがそう命じるのを。


 そして顔面に銃弾を受けた母が、赤ん坊もろとも倒れるところを。


「お母さん!」


 ――お父さん、お父さん、お父さん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お父さん、お兄ちゃん!


 ムジカが、子供たちの命乞いをする父の頭を、腐った桃か何かのように、片手で握り潰すのを。

 その手を兄の腹に突っ込まみ、内臓を引きずり出すところを。
 極上の食材を味わうような表情で、それを口に運ぶのを。

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