ううん、違う。

 あれは夢なんかじゃない。
 いつまでもいつまでも長い影のように追いかけてくる、紛れも無い私の現実。

 ロミは深く息を吐き出し、目を閉じた。

 悪夢の残像が、目蓋の裏にちらついた。

 楽しいこと、楽しいこと、とロミは心の中で念じた。
 そう、ここ何日かは、楽しい出来事が沢山あった。楽しい記憶だけを取り出して、後は捨ててしまうんだ。そうすれば、そうすれば……

 けれど楽しい思い出は、どろどろに溶けて掬いようがない。

 代わりに鮮明になっていくのは、兄の内臓を笑いながら食べている、ムジカの顔。

 ロミは目を見開いた。

 金色の瞳がギラリと光り、体中に力がこもる。

「ん……」

 と、横で、誰かが身動きした。

 ロミははっとした。
 自分の手が、一回り大きい手を握りしめている。目で追うと、マリサの頭越しに、レインが寝息を立てているのが見えた。

「!」

 たちまち昨晩のことを思い出し、ぎゃあ、とロミは声を上げた。

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