タキオはちらりと屋上を見上げた。

「親父さん、いねえのか」

「ええ。マリサの書道教室に付き添ってるから」

ロミはタキオの腕を振った。

「ねえタキオ、第一都市はどうだった? お金、何とかなりそう?」

「あーあー分かった、今から話す。ルツさん悪いんだが、ちょっと俺らだけで話させてもらえるか」

 家の中に入り、ルツの姿が食器棚の奥へ消えると、タキオは台所のテーブルに座った。
 牛乳をコップに注いで、ロミもうきうきとテーブルに座った。
 が、タキオの表情に、次第に高揚感が失せていく。

 タキオが一気に牛乳を飲み干すのを、ロミは黙って見守った。
 牛乳を飲み干すと、タキオはダン、とコップを、刺繍入りのテーブルクロスの上に置いた。

「ムジカが死んだ」

 ロミは大きく目を見開いた。

「今日の朝イチで入った極秘情報だ。まだ裏は取れていないが、ほぼ確実らしい。一週間もしたら、ムジカの領主辞任が、ユーラク政府から正式に発表される」

 長いこと、沈黙があった。

 ロミは目を見開いたまま、じっと、テーブルの上に飾られた、可憐な紫色の釣鐘草を見ていた。

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