「……辞任ってことは、死んだってことじゃないでしょ」

 ようやく発したその声は、低く、無表情だった。

「いや」

 とタキオは首を振り、「でも……!」と言いかけるロミを制した。

「グールの生態について、お前に教えていなかったことがある。今から教えるから、聞け」

 そう言うと、タキオは一度、「あ〜……」と言葉を濁した。しかしロミの食い入るような表情に、ようやく言いにくそうに話し出した。

「この世界には、七人のグールがいるって説明したが、正確には違う。人間の前には姿を現さない、八人目のグールがいる。
それがグールの『女王』だ。唯一の雌のグールで、全てのグールたちの、母親だ」

「母親? 全部の?」

たちまち、ロミの目に混乱の色が浮かぶ。

「そうだ。『女王』は大体五年から十年のサイクルで定期的に子供を生む。ワルハラのミトも、ユーラクのムジカも、アンブルのコンも、そうやって一人のグールから生まれた、兄弟だ。
……繁殖には勿論雄のグールが必要になるから、その都度『女王』は自分の子供たちの中から、相手を選出することになる。……ま、この辺は、蟻や蜂なんかの生態に近いな…… しかも『女王』は、なんだ…… 交尾が終わると、相手の雄を食っちまう」

ロミはポカンとしている。タキオはがしがしと首の後ろを掻いた。

「だから、ん〜。グールが領主を辞任するってのは、つまり、『女王』からお呼びがかかったってことなんだよ。ムジカは死に、奴の子供が生まれるってことだ」

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