タキオは、静かに言った。

「悪いが、俺はこいつを一緒に連れて行く気は、ない」

 お前だって、もう分かってるんだろう、とその瞳は告げている。

 ロミは力なく拳を落とした。

「……うん。そうだね」

 本当は、とっくに分かっていた。分かっていたが、認めたくなかった。

 レインには、グールへ突きつける刃も、グールを焼き尽くす炎もない。ただあるのは、全てを呑み込む漆黒と、泣いている者に差し伸べる優しい右手だけ。

 グールへの憎しみもなく、グールを倒したいという意志もないのだということ。


「レインは…… 一緒には行けないね」


 本当は、自分と同じように憎み、悲しみ、側にいて欲しかった。


 けれど、彼には、ロミのように懐かしむべき思い出もないのだ。幸福な記憶を、これから積み上げていくのだ。その時間を奪うことなど、許されない。



 ロミはレインを見た。
 レインはやはり昨日の夜と同じ、静かな表情で、じっとロミを見つめていた。


 ロミはレインに向かって、無理矢理微笑んだ。

「お別れだね、レイン」

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