ニルノは眼鏡をかけると、ジャケットの内ポケットから革の手帳を取り出した。

「ギルドに所属してないって言ってたけど、八年前までは旦那と一緒に、ギルド総長の目鳩呂(メグロ)に師事してたみたいだよ」

「旦那も使骸職人だったのか」

「うん。交通事故で亡くなったらしいけどね。当時結婚三年目で、妊娠していたルツさんは、それがきっかけでギルドを辞めたって」

ふうん、とタキオは腕を組んだ。

「さすが。新聞記者って職業は、こういう時に便利だな」

ニルノの鼻の穴が、得意げに広がる。

「これくらい朝飯前さ。他にも分かったことは色々あるよ。出身地は第七都市、旧姓は練田(ネリダ)……」

「ネリダ?」

 タキオの眉が、ぴくりと動いた。

「ん? どうかした?」

「……」

タキオはしばらく宙をにらみ、何か考えていたが、やがて頭を振った。

「いや…… 何でもない。
 ルツの実積って言うか、実力については聞いたか?」

「ああ。メグロは褒めちぎってたよ。アイディアだけでなく、それを実現させる技術までをも生み出してしまう、芸術家と職人、両方のセンスを兼ね備えた、まさに天才だったって。……ただし」

 と、ニルノはちらりとタキオの顔色を窺うようにして、付け加えた。

「それとなく。それとなーくね、『彼女なら、グールを殺せる使骸を造れますか』って聞いたら、『それはない』ってさ。それはいくら何でも不可能だって」

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