「不可能?」

 と低い声で、タキオは呟いた。

 ニルノはぎくりとした。

 タキオの灰色の瞳が急に、磨きあげられた刃のような、鋭さと深みを増す。それは、頬骨の高い肉食獣のような顔立ちと相まって、まるで肉食獣そのもののような表情になる。

「今さら不可能がなんだ。不可能なんか百も千も承知で、俺たちはここまで来たんだろうが。その不可能を可能にする可能性が一%でもあるなら、俺たちは、やるしかないだろう」

「でも…… そのルツって人は、大金巻き上げようとしてるだけかもしれないだろ?」

「それはない。少なくともあいつは、造れるという自信を持っている。その自信に、賭けるしかない」

「馬鹿じゃないのか?」

 とニルノは声を荒げた。

「そんな僅かな可能性に、五千万も賭けるなんて。それで結局、使骸が造れなかったら、どうするつもりなんだ」

「そうしたら」

 とタキオは言った。

「また新しい職人を探すだけに、決まってんだろ」

 口を半ば開けたまま、ニルノは黙った。

 いつの間にか店のテレビは、バラエティ番組に変わっている。ガランとした店内に、賑やかな笑い声が響く。

「……ニルノ」

 雑多な笑い声の中に、タキオの静かな声が、響いた。

「グールのいない世界を作るなんてことが、そもそも夢物語じゃねえか。そんな夢物語振りかざして、お前だって命の危険を犯して、アンブルを亡命したんだろ」

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