ニルノはナンをちぎると、チキンカレーに浸し、むしゃむしゃと食べ始めた。

「ワルハラに来れば、希望が見えると思ってたんだ! 検閲だらけの記事じゃなく、もっと自由な記事が書けると思ってた! けど、確かにこの国には検閲はないけど、領主を批判するような記事を書こうとすると、周りの人間が止めるんだ」

「……」

「領主が怖いからじゃない。その逆だ。皆、ミトの政治に満足してるんだ。それに異議を唱えようとすると、こっちがまるで、平和の敵のような目で見られる」

「……まあ、グールと戦争しようってんだから、平和の味方ではないよなあ」

 タキオはため息と共に、マトンカレーに浸したナンを口に入れた。咀嚼すると、マトン独特の風味に、濃いカレーの香りが上手く混ざり合って、何とも言えず美味い。

「冗談じゃないよ! これなら、アンブルに留まって、秘密警察と闘っていた方がマシだった!」

「口に入れたまま喋るな。それに、思ってもないこと、言うんじゃねーよ」

 ニルノは顔を上げた。
 タキオはちぎったナンをニルノに向けた。

「俺は覚えてるぜ。お前が中央報道局に入って初めて書いた、フェンリル狼の記事。
何てこたあない動物園の話だったが、あんなんでもアンブルじゃ、グールに対する諷刺記事として検閲に引っかかっただろうな。お前が書きたかったのはこれか、って思ったよ。ロマンチストなお前らしい、良い記事だったぜ」

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