ナイフはあやまたずエナの腹部へ突き刺さり、エナは、頸動脈を切り裂く寸前だった刃を取り落とすと、その場に崩れ落ちた。

「早く、救急車を!」

 息を呑むヒヨたちに、テクラは叫ぶ。

「急所は外しました。すぐに手当てすれば、大丈夫です! だから救急車を!」

すぐさまキリエが踵を返し、階段を駆け上がる。エナの元へ走り寄るテクラとヒヨを、ガンが黙って見守る。

 テクラは、蒼白な顔で横たわるエナの傍らに膝をついた。

「僕たちは……」

 死にゆく小鳥のような、怒りとも悲しみともつかない、呻き声。
 どんどん白くなっていくエナの唇から漏れたそれは、テクラの耳を突き刺し、暗い暗い四方の闇へ消えていく。

 そんな小鳥を、ただ眺めていることしか出来ない、子供のような表情で、テクラは呟いた。

「僕たちは、生きるしかないんだ」

 苦痛で歪むエナの目元から、涙がこぼれた。

 嗚咽は冷たい偽造紙幣の工場に響き渡り、いつまでもいつまでも消えない。そう、永遠に、テクラの鼓膜に震わせて。

 彼女の流した涙は、亡き祖母の形見の上へ落ち、彼女の悲鳴に応えるように、小さく震えた。

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