トンネルを出た先は、地面をくり貫いて作られた巨大な貯水池で、コンクリートで固められた内部上方の排水口から外へ向かって、
壁に沿って道がぐるりと巻いてあった。 一つでもハンドル操作を誤れば、下方の水溜まりへ落ちかねない危険な道だったが、 アイは結構なスピードを出したまま危なげもなく、朝日に照らされた道を走りきった。 貯水池の外には何もなかった。ただ、森に覆われた丘へ、舗装されていない一本道がずっと続くばかりだった。 金色の光に照らされた平原を、車はまっすぐ走っていった。 レインがフロントガラスに鼻をくっつけんばかりに身を乗り出すのを見て、アイは後部座席の窓を開けた。 涼しい夏の朝の風が、レインの顔を撫でた。 森の木々が風に揺れる音。久しく嗅いでいなかった、渋くて、ほんの少し甘く、それらが深いところで混ざり合い、 無限に反響し合っているような、森の香り。夜の間に雨が降ったのか、空気は湿り、少し靄がかっている。 金色の靄の向こうに広がる青空。朝日に伸びる長い影。鳥の声、蝉の声。 眼球が潤み、鼻がつんとするのを感じながら、レインは目を閉じた。 胸の内に、見る見る間に、何とも言えない安堵感が満ちていく。自分自身がこの風景の、風の、森の、鳥の、虫の一部となり、 金色の光に染まっていく感覚。 レインの隣でルツも深く息を吸い、眠ったままの老人も微笑んだ。 「あ、ここ、知ってる!」 ルツの膝の上で目覚めたマリサが嬉しそうな声を上げた。 「あの丘を越えれば、おばさんの家だよ!」 -------------------------------------------------- |