コジマは目を閉じた。


 ……あんな会話をしたのは、いつのことだったか。
 一年前か、二年前か、いずれにせよ、自分がムジカの秘書になってからずっと後、彼の信頼を得た後のことだ。

 表面上は冷静な風を装いながら、実は、気難しくて気まぐれな彼の信頼を得るのに、どれほどの時間がかかったことか。
 仕事に関する事務的な用件、時折気まぐれのように振られる、他愛もない世間話。
 それらの中で、ほんのたまにムジカが見せた、己の深淵に触れるような言葉。


 そう、彼とあんな会話を交わしたのは、人間では、私以外いなかった。


 葬列の嘆きは、次第に遠のいていく。それに連れて、市場は再び活気づいていく。ラジカセの音楽はまた大きくなり、 三人の男たちの話題は、ラジカセから流れてくる音楽へ移っていく。

 コジマは目を開けると、ミントティの残りを飲み干した。ミントティは、すっかり温くなっていた。それからトーベが地面に捨てた 紙コップを拾い、自分の分と一緒に、店のゴミ箱に捨てた。

 日よけの外に出ると、太陽がギラリと照りつけた。コジマはスカーフの端をしっかり掴み、太陽を見上げた。

 白い地に、黄金の太陽。今やそんな旗は、どこにもない。

 あなたの言った通りになった、とコジマは思った。
 あなたが死んで、泣いた者など誰もいなかった。

 そう、誰一人も。

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